小汚い中華料理屋の小汚いオヤジ

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以前、人の心を掴む達人として、地元のリトルリーグの監督「ナベさん」を紹介した。

このナベさん、けっこうなオヤジだったが爽やかなルックスにも恵まれていた。

だが、今回紹介する人の心を掴む達人はルックスと言う点では最悪の部類。

上京してきた頃、何気無く立ち寄った下町の小汚い中華料理屋の小汚いオヤジ店主だ。

今時、こんな典型的なのが居るのかって笑えるくらい下町のオヤジ。

チビでデブでハゲ。いつもTシャツにハーフパンツ。タオルを頭に巻いて、ヘビースモーカー。

厨房でも当然のようにタバコを吹かして、テレビはつけっぱなし。

味は結構良いんだけど、店主がそんなんだし、店もきったなくて女性客や家族連れなど皆無。

言っちゃ悪いが、男でも社会的地位が高そうな人はまず利用しないだろう。

だけど、このオヤジは愛されていた。店も繁盛していた。

俺も皆も、オヤジがたまらなく好きだった。

会話が弾む店

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もちろん、ある程度美味しいと言う理由もある。

だが、それならあんな汚い店じゃなくても東京にはいくらでも安くて美味い店がある。

他の店と決定的に違ったのは、店内の会話量だ。

それも、客同士がダベり易いとかではない。オヤジと客が常に喋り続けているのだ。

汚く、狭い店内にはカウンター席しか無い。

後ろの僅かなテーブル席はオヤジが道具やら廃材やら置いて潰していた。

そんな店内で、オヤジが厨房から大声で喋りまくる。

カウンターに座ってる人に、次々と喋りかける。

次々と客を雑談の渦に巻き込んでいく。
どう見ても、普段口数が少なさそうな客もオヤジに対しては饒舌になる。

「うるせーよ、静かに食わせろよ」と言いそうな人でも、オヤジのペースにハマって笑顔で喋り出す。

そこから、見知らぬ客同士での会話まで生まれる。オヤジもチャチャを挟みつつ客と一緒に「ガハハ!」と笑う。

声がデカい!

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圧倒的な声量と笑顔で一気に掴む。

「ヘイラッシャアアアアアアッ!!回鍋肉ウオオオオオッシャアアアアアアイッ!!」

「おう兄ちゃん!!学生か!?」

「1年坊主か!!この辺の事なら俺がなんでも教えてやるよ!!」

「ヘイ回鍋肉お待ちぃッ!お兄ちゃん!!田舎はどこだ!?」


なんだこのオヤジ!?と度肝を抜かれるが、自然とこちらもボリュームが上がる。

このオヤジをシカトしたり無愛想な対応するのは難しい。

雑談の引き出しが豊富

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波乱万丈な人生を送っており、遊び人。
その癖、妙にマニアックな知識も持っている。

好奇心旺盛と言うかなんと言うか・・・なんでもとりあえず手を出すタイプだった。

テレビ垂れ流しと言う環境も良い方向に作用してたのだろうか。

長年の客商売で身に付けたものなのだろうか。

まぁ、庶民を相手にする訳だから庶民の好きそうな話題は大体掴んでいるのだろう。

特に、低俗な話題にはめっぽう強かった。

飾らない
 
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見た目からして分かる事だが、このオヤジは飾らない。少しは飾れと言いたくなるくらいだ。

自分の手痛い失敗やカッコ悪いエピソードでも、平気で笑いに変えてしまう。
だから、皆話しやすい。親しみを持てる。

どこかに話が漏れる心配も無いしね・・・

「オヤジになら、なんでも話せる」

受験や留年に悩む学生、仕事でパワハラを受けて苦しんでる会社員、フラれたばかりの若者、ギャンブルで大負けしたオッサン・・・

皆、恥を共有していた。そして、オヤジと一緒に根拠の無い励ましや笑いで傷を舐めあっていた。

俺も恋愛の相談した事あったんだけど「男がウジウジしてたらダメだよ笑え!捕まらない程度に猛アタックだ!酔わせて押し倒せ!」なんて、なんのアドバイスにもならないアドバイスをもらった。

でも、だいぶ励まされたよ。

記憶力が凄い

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これは本当に凄かった。

あれだけ長年やってそれなりに店も繁盛してりゃ、客の顔を覚えるなんて至難の業のはずだ。

だけどこのオヤジ、忘れない。覚えてる。

客の事、前に話した時の事をしっかり記憶してるから、なんだか嬉しい。

忘れて当然なのに、近所のよしみのようにいつも楽しく喋れる。

地域密着型で常連が多い店、会話が多いから記憶に定着しやすいと言う側面もあるが、それにしても凄い。

俺の友達が半年ぶりくらいに来店したら「今日は◯◯大学のツレ(俺)は居ないのか!」と言われたそうだ。

半年前に一度、俺と一緒に食べに行った事があるだけなのに・・・覚えてるのな。

「3年ぶりに単身赴任から帰ってきたサラリーマン」の事もしっかり覚えていた。

もちろん当てずっぽうなどではない。そんな場面を何度も何度も見てきた。

愛するから愛される

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商売人、料理人と言う視点から見たらあのオヤジは問題だらけだ。

唾は飛ばしまくるし、タバコはスパスパだし、厨房から客席、店主まで全部が汚い。

だけど、どんな名コックや行列のできるお店にも負けない良さがあった。

行けば、誰もが楽しく喋れる。どんな話でも楽しくなってしまう。

あのオヤジは本気で客を愛していた。あんなオヤジに愛なんて言葉を使うのは少し笑えてしまうが・・・

もちろん、そこには金銭のやり取りが発生しているし、食事を終えるまでの短い時間のみの触れ合いだ。

だけど、「お前ら金払えば俺がメシ作るからよぉ、ちょっとダベってこうや!」と言う想いが感じられた。

なるべく多くの客と話し込んでいた。

商売のテクニックとしての「会話」を微塵も感じさせない、何も飾らない純粋さがそこにはあった。

誰よりも客を愛したオヤジは、誰よりも客に愛された。

俺も現役引退よガハハ!

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そんなオヤジも数年前、病に倒れ店を閉めてしまった。命に関わる程ではなかったそうだが・・・

トシの割にハチャメチャな生活してたし、酒もタバコも酷かったし、皆の心配が現実のものとなってしまった。

人伝てだが「俺も現役引退よガハハ!」と笑い飛ばしていたそうだ。

長年やってきた店を閉める事すら笑い飛ばしてしまうなんて、実にオヤジらしい。

きったねぇ店は取り壊され、新しく小洒落た綺麗なお店ができた。

あの耳に突き刺さるデカい声ももう聞こえてこない。

「女口説く時は眉間の辺り見て、目線で濡らせ!ガハハ!」なんてアホな会話も聞こえてこない。

閉店からいくつもの季節が過ぎ去り、もう、オヤジと話せないのか・・・と言う寂しい気持ちもいつの間にか消え去っていた。オヤジの事も、店の事もすっかり忘却の彼方だった。

しかし今日、俺の友達が街でオヤジに会ったと連絡してきた。

「おう!ナンパにハマってた学生だろ!?」と脅威の記憶力は健在。

退院して、それなりに不自由無く日常生活を送れるようにはなったそうだ。

良かった良かった。まだこの街で、あのオヤジは元気に笑ってる。



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