地元の人気者

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長年、地元の町内会長とリトルリーグの監督を務めていた「ナベさん」と言う人が居る。

とにかく人の心を掴むのが抜群に上手く、ナベさんの周りには人が集まる。大人も子供も笑顔に満ち溢れる。

俺は小学校1年生の時にリトルリーグに入団し、ナベさんと出会った。


少子化、野球人気低下が叫ばれ、近隣のチームが部員減少や指導者不足により合併や消滅までしてしまう時代にありながら、メンバーはうなぎのぼりで増えていき、父兄がどんどん指導者になっていき、OBもしょっちゅう顔を出す。

当時はそれが普通なのかな、なんて思っていたが全くそんな事はなかった。 

中学、高校、大学、社会・・・背が伸
びるにつれて、様々な集団のリーダーに接していく度にナベさんへの尊敬の念は深まっていった。

あれほどまでに明るく楽しく団結した集団に属する事ができたのは、俺の大きな財産だ。

人生では重要な出会いがいくつかあると思うが、俺にとってはナベさんとの出会いもその一つ。 

そんな人の心を掴む達人・ナベさんを自分なりに分析してみようと思う。

第一印象が抜群に良い

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初対面というのは誰もが未知との遭遇に緊張するものだ。 

しかし、ナベさんは弾けんばかりの笑顔で初対面の人間に突っ込んでいく。

「おうこんにちわ!俺、監督の・・・ナベさんって呼んで!よろしく!」
「イノセントボーイでいいかな?お母さん!呼び捨てでよろしいでしょうか?」
「よし行こうやイノセントボーイ!」

俺の時はこんな感じだった。

本当にすぐ打ち解ける。比較的明るくない人や無口な人も、ナベさんの明るさを前にすると「この人には話してもいいんだ」と認識し、心を開くようになる。

褒め天才

とにかく上手い。抜群に上手い。 

長年の経験や努力で培われたものなのか、生まれ持っての才能なのかは分からないが天才的だ。 

わざとらしさを感じさせない。

時には豪快に、時にはしみじみと、時には周りの人間を介して・・・

巧みに褒め方を使い分け、心に染み込ませてくる。


豪快褒め→
これでもかと褒める。本人の歓喜以上に感情を爆発させ褒める。 
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しみじみ褒め→真面目な顔で頷きつつ褒める。老舗の料亭でなんか食った時みたいな褒め方で真剣さを表現する。
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陰褒め→陰口ではない。本人の居ない所で積極的に褒める。それが他人を介して伝わった時は感動すら覚える。
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試合を決めるヒットを打った時なんかもう凄かった。

ベンチから俺に向かって「よおおおおおっしゃぁっ!よくやったぁ!」「さすがイノセントボーイッ!!」と豪快褒め。

そしてすぐさまベンチでコーチ達(俺の父親も居た)に「イノセントボーイのリストワーク(手首の使い方)はいいですね」と影褒めをかまして、ベンチの他の選手達に「みんなもイノセントボーイの手首の使い方を見習おう」と更に影褒め。

試合後のミーティングで再び「イノセントボーイ!よくやった!皆拍手!」と豪快褒めを入れて、「うん。やっぱりイノセントボーイのバットは頼りになるなぁ・・・あのリストワークには鳥肌が立った。うん。」としみじみ褒めで締めくくる。

何故そんなことができるのかと言えば、多分人間を一生懸命観察している。

俺がやろうとしていた努力だったり、センスの無い人間の数少ない光るポイントだったり、褒めて欲しいタイミングだったり・・・よく見てる。

言葉で信頼感を示す

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信頼感を積極的に言葉に乗せて伝える。

エースには「お前がこのチームの柱なんだ」と伝え、補欠の選手には「お前の力を借りる時が来るから、しっかり準備しといてくれ」と伝え、積極的にチャンスを与える。

レギュラーではあったがチームの命運を握るようなエースや大黒柱ではなかった俺は「お前は4番を張れる資質がある」と能力を認めてもらいつつ、「黒子役の重要性」も説かれた。

ポストを与えて信頼感を示す

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選手の父親に対しては積極的にポストを与える。

ナベさんは監督と言う立場上、指導者の中心的存在ではあったがトップと言う感じでは無かった。

野球経験者の父親には積極的に指導を促し、未経験者の父親にも何かしらの形で選手の指導、指導補助に参加するよう勧めていく。

そして、ある程度グランドに足を運ぶ機会が増えた父親には、コーチ就任を打診する。 

大した仕事ではないかも知れないが「コーチ」と言う肩書きがつくと、何もナシの父兄よりはやる気スイッチが入る。

野球経験者はヘッドコーチ、総合コーチ、打撃コーチ、バッテリーコーチ、ピッチングコーチなどの技術的なコーチを任せる。

野球未経験者にも職業が医療系の人にはメディカルコーチとして、選手たちの健康管理やアクシデントに対応させ、学生時代陸上をやっていた人には走塁コーチのポストを、幼稚園の先生をしている人にはジュニアチーム(低学年)のヘッドコーチを任せるなど、しっかりポストを与えて上手く大人もやる気にさせていた。

他のチームに較べて大人が多かったのはこれが理由だろう。

魂を汲む

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よく、ミスや敗戦の後に「悔しかったろ。次やり返すぞ」と声をかけていた。 

三振やエラーはしたくてしている訳じゃない。活躍したい、勝ちたいって気持ちを良く知っているからこそ、死体に蹴りを入れるような感情的な言葉は吐かない。

接戦や大事な試合などで補欠の選手を試合に出してやれなかった時は「本当にすまない」とフォローし、自身の采配ミスで試合を落としてしまった時も「俺の責任だ。悪かった!」と子供達やコーチ達に頭を下げる事もあった。

感謝の気持ちをこれでもかと伝える

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恐らく、日本語の中で最も美しい言葉だろう。 

「ありがとう」を思い切り、これでもかと伝える。

今この瞬間も、ナベさんの声が脳内再生され少し笑えた。

「ありがとうっ!!」「ありがとなっ!」

ただし・・・

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実はこのナベさん、人格者とは言い難い。 

人の心を掴むのが上手いだけあって、女性関係のトラブルをちょくちょく起こしていた。家庭が修羅場と化していたそうだ。

俺は優しい人だと思うが、穏やかなイメージはあまり無い。 

けっこう熱くなりやすいタイプで、怒鳴ってしまったり汚い言葉も使いがち。

だけど、俺は大好きだったし皆も大好きだった。尊敬している。 

短所もあったが、長所が全て帳消しにしてしまう。 

愛されるには人間臭さも必要と言う事なんだろう。


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