葛藤

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朝のニュースで出版を知った時、俺の嘘偽り無い気持ちは「すぐ読みたい。今日、本屋寄ろう」だった。

あれだけの事件を起こした凶悪犯罪者が書く本だ。どんなに教養高く、文学的評価の高い天才作家の作品よりも、芥川賞を受賞した芸人の作品よりも、遥かに興味が沸いた。

だがすぐに、この本を購入する事により、少年Aの養分となる事、被害者遺族へのセカンドレイプの片棒をかつぐ事への葛藤が生まれた。

俺は、人として間違ってはいないだろうか?こんな本を発売日に購入し、読む自分を他の人はどう思うだろうか?

だが結局、俺は「読みたい」と言う欲求を抑えなかった。正直に言おう。俺は、ただ読みたかった。被害者遺族の感情への配慮はできなかった。

人間の本質

以前、動画サイトで「人が津波に飲まれる瞬間!東日本大震災」と言うタイトルの動画を見ようとした事がある。

その動画は、単なる再生数稼ぎの釣り動画で全く無関係の映像だった。俺は憤った。人の悲惨な死をネタにこの野郎・・・・・・

ハッとなった。鳥肌が立った。
俺は、人の死ぬ瞬間を見ようとしていた。津波に飲まれ、人が死んでいく瞬間を見ようとしていた。

被災者の方々の死を喜んでいる訳ではない。恐らく、本当にそのような映像を見たら、辛い気持ちになるし心を痛めるだろう。でも、見ようとしていた。

聞いた話によれば、人間は生の裏にある死を覗いてみたいと言う欲求を持っているらしい。

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だから、事故れば死ぬレベルのスピードを楽しんだり、スポーツ・決闘を問わず殴り合いや殴り合いの観戦を楽しんだり、スリルを楽しめるのだ。

インターネットやテレビで、凶悪犯罪や猟奇事件、悲惨な事故の記録や番組に夢中になった人は多いだろう。

あまり大きな声で言えることではないが、それもまた、人間の本質なのではないだろうか?

「被害者遺族の感情」と言う金科玉条

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自己擁護と言われても仕方ないが、人間の理念と本質は必ずしも一致しない。
案の定、絶歌はベストセラーとなった。どこもかしこも売り切れだ。

本を購入しているのに執筆・出版を批判している人は言うまでもないが、本を購入せず批判している人にもそれが言えるのではないだろうか?

「被害者遺族の感情を考えろ!」と言う意見には同意できる。愛する我が子をあのような形でいきなり奪われた上に、今回の仕打ち。想像を絶する痛みがそこにはあるだろう。

だが、被害者遺族の感情に最大限配慮しているのであれば、一番やるべき事は話題にしない事だ。
話題が話題を呼び購入意欲を煽る事くらい、誰もが理解できるはずだ。

それでも、話題に出してしまうのは、自分の正義感を満たすため・・・
それでも、購入してしまうのは、自分の読みたい欲求を満たすため・・・

俺含め、被害者遺族の感情に配慮できている人間は本当に少数だと思う。

変わるべき、批判されるべきは法

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連続無差別殺傷事件、被害者5名、死亡者2名。そんな凶悪犯罪者が、7年ほどで法律上は自由の身となる。

少年だろうがなんだろうが関係ない。死刑、最低でも無期懲役。俺は今でもそう思ってる。

だが、少年法とはそう言うもの。
今回の件にしてもそうだ。遺族の民事訴訟こそ可能だが、法律上は「犯罪をネタに金儲け」もアリなのだ。

度合いは違えど、過去に犯罪を犯した人が堂々とテレビに出ていたり、それをネタにしてたりする。

このブログサービスで書くのもどうかと思うが、時代の寵児とか・・・侍ジャパンの監督とか・・・禁酒してる元サッカー選手とか・・・

ポエムのような文章

肝心の内容のほうだが、やはり犯行声明文と同様の言い回しが妙に目立った。
色々本を読んだ中学生があんな感じになるのは、まぁ理解できるが少年Aは今32歳。

ふざけてる、ナメてると言う意見も理解できる。俺も凄くイライラした。だが、仕方ないのかも知れない。

塀の中の教育は詳しく知らないが、元々学業成績は良くない上に、14~20過ぎまで我々が想像するような普通の教育を受けていないのだ。

ケータイ小説やmixi、Twitter、Facebook等に溢れる一般人の文章を比較対象にすると、まだまともな文章と言えるかもしれない。俺も、そんなに文章力には自信が無い。


性と死

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この事件を語る上で外せないのは、少年Aが死に快感を覚える異常性癖であると言う事実だ。

第一部に、その理由も説明されていた。

①祖母の死後、死について考えるようになる
②生前、祖母が使っていた電気マッサージ機に純粋に想いを馳せている内に、それを何の気無しに股間に押し当て自慰を覚える
③遺影の前で遺品の電気マッサージ機で自慰を繰り返す事により、性的快感と死が結び付く
④ナメクジや猫を殺害するようになる

と言った流れだ。

そう考えると性も怖い。強烈な体験はその後の人生に影響を残す事が多い。
初めて見たビデオが洋モノだった、初めてのオカズが貧乳だった、初体験の相手が熟女だった…

汚い話になるが、俺の友人は当時恋していた女子の野外放尿を偶然見かけてしまい、女性の尿に凄まじい興奮を覚える人生となった。

また別の友人は、少年時代に読んだ漫画の中の「綺麗な女性が腹部を殴られ悶絶する」と言う描写に凄まじい興奮を覚え、今でもそのような描写のあるアダルトビデオを好んでる。

勿論、彼らはその性癖を「覗き」「暴行」に発展させていない。通常の範囲であれば、それは「フェチ」と言う言葉で片付ける事ができる。

しかし、少年Aの場合はどうだろうか?性の目覚めは電気マッサージ機の振動だが、それは「死」に大きく関わるモノだった。

ストッパーが加速装置に
 
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奇しくも、少年時代は虫など小さな命を奪う事を楽しめてしまう時期。だが、普通は「小動物はちょっと…」などと、「よりリアルな死」に怯えて歯止めが掛かる。

少年Aには、死=快感の性癖によりその歯止めが機能しなかった。「よりリアルな死」になればなるほど、興奮が増したようだ。

「やっちゃいけない事と分かっているが、やりたい。性欲を抑えきれず…」と言う感覚なのだとすれば…

感覚としては浮気や不倫、刑事事件で言えば痴漢や盗撮、強制わいせつや強姦あたりなのだろうか?

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女性には理解し難い感覚かも知れないが、男は性欲を倫理や法律によりかなり縛られている。犯罪者でなくともそれは変わらない。犯罪で無ければ、やりたい。

あなたの父親、兄弟、旦那、彼氏、親友。男であれば、性欲が枯れていない限り皆、例外無くそうだ。

勿論、性癖がどうであろうが無差別殺人で尊い命を奪った少年Aは絶対に許せないし、この社会から一刻も早く排除すべき存在だと今でも思う。

だが、同時に物凄く不幸だとも思う。少年Aは確かに凶悪殺人犯になりたくてなった人間だ。だが、それもこれもこの歪んだ性癖が原因である事は間違いない。

こんな性癖になってしまった事に関しては本人の意思ではない。当時から周囲と自分のギャップ、異常者と言う事実に苦悩している。

今更、たらればを言っても仕方の無い事だが、もし性の目覚めが多くの男と同じように「死」と無関係の通常の範囲であったら…

彼は殺人、いや動物虐待にすら目覚める事なく、思春期特有の普通の非行少年程度で済んでいたのではないだろうか?


人間らしさ

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この本を読むまで、少年Aは人間として大事な感情が欠落しているように思えた。無表情、空虚、冷酷、氷のような、機械のような…

そして、それは生まれつきでどうしようもない「先天性障害」のようなものと捉えていた。

しかし、少し考えを改める事になった。
俺は、この本を通して少年Aから人間らしさを感じ取る事ができた。書いてる事に嘘がなければの話だが。

1ミリたりとも同情的な感情は湧いてこなかったが、俺の中の少年A像はガラリと変わった。

まず、身内の人間に対する愛がある。幼い頃に死別した祖母への愛、育ててくれた母への愛は犯行当時も持っている。

逮捕後、初めての面会時に怒鳴りつけてしまった事を悔い、次の面会を自ら要望し謝罪したそうだ。

そして、当然かも知れないが罪を犯して平常心を保つ事はできていなかった。殺人という罪に、それなりに感情を動かされている。

創作物に登場する冷酷な殺し屋のように、命を奪う事に達観していない。明らかに動揺している。

自身の社会的な死への恐怖心ではない。ただ、自分が命を奪った事実に動揺している。常人程ではないが、罪悪感のようなものは感じている。

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医療少年院生活の中でも、出所後の社会生活でも、他人に対して身内、仲間のような感覚を持っている事がわかる。やや狭いと感じるが、充分常人の範囲と言えるだろう。

そして、仕事を通じて他人に必要とされる喜びを理解すると同時に、そんな身内や仲間に自分の過去を隠して接する事に苦悩している。

出所後、父親に「家族をめちゃくちゃにしてごめんなさい」と真摯に謝罪している。

職場の仲間の家に招待された時、仲間の幼い娘と息子に無邪気に懐かれて、急に体調が悪くなった事もあったそうだ。

少し、安心した。凶悪犯罪者と言えども、人間なのだと実感した。あれほどの罪、その重みを感じないほどに壊れてはいないのだ。

なぜ、出版した?

人間らしさは感じた。だが、そもそも論になってしまうが、何故出版した?ここはどうしても引っかかる所だ。

恐らく、多くの人間が感じる所だろう。
被害者やその遺族が可哀想だから出版するなと言うのは、普通の人間なら誰もが思う事だ。

それは少年Aも理解している。何度も文中で詫びながら、自己救済の為と説明している。

自分なりに考えてみたが、インターネット上の批判に多く見られる「金儲け」とはあまり感じなかった。

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確かにやってる事は金儲けなのだろうが「自己救済」と言う少年Aの表現は適切だと思う。俺のイメージする金儲けのような贅沢では無い。

少年Aは出所後、そこらのフラフラした人間よりは選り好みせず熱心に仕事に打ち込み、安い家賃の部屋を借りて、お金の掛からない質素な生活をしながら堅実に貯金をしていた。

転職こそ何度かあるものの、不景気故の解雇もあったりするのでそこまで批判的にはなれない。世間では辛いとされる肉体労働系がメインだし…

最終的に挫折したとは言え、中学3年からハタチ過ぎまで世間から隔離されていた元犯罪者と言う事情を考えると意外なほど普通だ。

だが、ついに罪の意識に押し潰され、社会で生きる場所を失った。だから、せめて生きる為に…と言った所だろうか。

それが、人間なのだと思う。他人が大事な存在になればなるほど、自身がひた隠しにしている過去に心を締め付けられる。

自分の過去に苦しめられる経験をした人には分かるだろうが、たかがその程度でも相当苦しい。秘密を守りきれない人も多いだろう。

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少年Aがひた隠しにする過去の重みは想像もできないくらい重いものだ。これ以上の過去を抱えてる人間は日本に何人も居ないだろう。

自業自得は百も承知だが、社会でまっとうに、普通の人間として生きようとすればするほど「普通じゃない過去」に苦しめられる。

恐らく、生への希求が希薄だった事件当時のままなら、彼は社会で行き詰まった時点で死を選択していたと思う。

しかし、様々な人との出会いを通じて、彼は生を実感し、やがて希望するように、愛するようになってしまった。

だから、「普通じゃない過去」を世間にさらけ出す事で心の安定と、生きる為の金を手に入れようとしたのではないだろうか。遺族を再び傷付けてでも、生きたかった。

綺麗事一切抜きで、何としてでも生きたかった。それが出版の理由だろう。


生を愛する

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この本を購入し、読んで、良かったと思っている。これほどの過去を背負った人間の想いを知る事ができた。少年Aから人間らしさを感じ取る事もできた。

だけどやはり俺は、今でも少年Aは死刑になるべきだったと思っている。今すぐにでも死んで欲しいと思っている。

自分の近所に、いや自分が住むこの世界に生きていて欲しくない。
しかしながら法律上、少年Aは許された。自分を殺して生きる事となった。

「自分は多くの人間が死を願う人間である」と自覚した上でも、生を愛し、凄まじい過去を背負いながら生きる。

死刑にならないなんてヌルいと単純に思っていたが、こんな過去を背負いながら生を愛する事は死ぬ以上に辛いのかも知れない。

かつてあれだけ生への執着を見せず、殺人を楽しみ、射精にまで至った少年Aとて例外では無かった。

Q.どうして人を殺してはいけないのか?

A.どうしていけないのかは、わかりません。でも絶対に、絶対にしないでください。もしやったら、あなたが想像しているよりもずっと、あなた自身が苦しむことになるのです

彼が今、想像を絶するほど苦しい世界に身を置いても、生を愛する人間である事にひとまず安心した。

俺は、少年Aには生を愛する資格など無いと思っているから死を願い続ける。
だが、少年Aには、生を愛する気持ちを忘れないで欲しい。一生、生を愛し続けて欲しい。